FIT・FIP制度によらない太陽光発電導入拡大のビジネスモデルとしてのPPA(Power Purchase Agreement・電力購入契約)方式が拡がりを見せている。企業、自治体、個人などの電力需要家がPPA事業者に自身専用の太陽光発電システムを設置してもらい、その発電電力の使用量に応じた料金をPPA事業者に支払う仕組みである。電力需要家自身が所有する建物や敷地内に発電設備を設置する場合は「オンサイトPPA」、他所に設置した発電設備から託送する場合は「オフサイトPPA」と呼ばれる。電力需要家は、設置費用や設置後のメンテナンス費用を負担する必要がなく(一般に初期費用ゼロ円モデルと呼ばれる)、小売り電力事業者から購入するより安価な電力に切り替えることができる。この背景には、太陽光発電の世界的な導入拡大と技術開発により、太陽光発電システム価格が劇的に下がったことで、PPA事業者が提供する電力契約単価が、既存の電力事業者の販売電力単価より安価に設定できるようになったことが挙げられる。さらに、契約単価が長期にわたって固定化されるので、将来の化石燃料の高騰による電気代上昇にも左右されない。PPA事業者にとっては、長期にわたる売電収益が見込まれる一方で、電力需要家にとっては、設備投資の必要がなく電気代高騰リスクから解放されるため、太陽光発電導入へのハードルが大幅に低くなるとともに、レジリエンス強化にも繋がる。
FIT制度のないアメリカでは早くからPPA方式に着目し、税額控除と組み合わせて太陽光発電の普及に寄与しており、さらに太陽光発電の環境価値のみを取引するバーチャルPPAも進められている。日本では、経済産業省がFIT制度による導入拡大を進める一方で、環境省が2020年度に「地域の再エネ主力化レジリエンス強化促進事業」を創設し、同年度の補正予算が編成された際に同事業の中で新たに「PPAの活用」が盛り込まれた。こうしてFIT・FIP制度を使わないPPA方式活用補助金による導入が幕開けた。
PPA事業者は初期投資を長期間の料金収入で回収するリスクがあり、電力需要家は新たな契約形態への不安など両者からの危惧もあったが、国が支援する事業として進み始めた。図1に示すように、単発型のオンサイトPPAから始まりオフサイトPPAへと進み、ノウハウと実績の積み上げによりその優位性が評価され、集団的、複合的、組織的導入へと発展し始めている。自治体への公共建物PPA、企業への民間施設PPA、個人への住宅PPA、大口ユーザーへの低圧地上設置型PPAなど、PPA方式の採用が太陽光発電主要市場にも広がり始めている。PPA方式の登場により、電力需要家による太陽光発電導入への考え方が“全量売電による収益を目的とした導入”から、“使用電力のグリーン電力転換や自家消費による経費削減を目的とした導入”へと変わり、PPA方式が太陽光発電の自立的な導入への大きな推進力になろうとしている。
今日の太陽光発電の導入は、売電収益を目的とする発電事業者による導入に加えて、自家消費を目的とする電力需要家自らの導入へと進展している。PPAは両者に対応する方式であるが、前者はFIT・FIP制度を活用しての導入を進めることもできる。しかし後者は、グリーン電力への転換や電気料金節約への経費削減のための導入であるため、PPAの活用など自家消費を促進する新たな施策や仕組みが求められる。
太陽光発電導入拡大を加速していくためには、自家消費を目的とする電力需要家の主体的な導入展開も不可欠で、PPA方式の浸透が大きなカギを握る。第7次エネルギー基本計画では太陽光への基本的考え方として、「自家消費&地産地消を担う分散型リソース」、「地域との共生と国民負担の抑制を前提とする導入」、「需給近接型での建築物の屋根・壁面の有効活用の追求」が示されている。PPA方式はこの考えを具現化するものであり、FIT・FIP制度でカバーされない導入を補完するとともに、国民負担を伴わない新たな導入拡大の機会を生むポテンシャルを有している。
一方、現状のPPA方式は、PPA事業者による長期にわたる資金回収が基本となるため、その電力需要家は大企業、地方自治体、“一部の個人”にとどまっている。PPA方式による導入の円滑な拡大に備えて、市場別PPA活用ガイドライン制定や、誰もが安心かつ安全に活用できるPPA方式の制度整備を早急に進める必要がある。発電事業としてのFIT・FIP制度と自家消費促進としてのPPA方式を両輪とした導入展開を期待していきたい。そのためには、PPA方式を太陽光発電の導入加速に向けた新たな普及基盤として育てていくべきである。
図1 PPA方式による導入進展
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The English version “RTS Monthly Perspective” can be found here. (English version will be released1~2weeks after the Japanese version)