「第7次エネルギー基本計画」が閣議決定され、2040年のトップ電源に位置付けられた太陽光発電は、同基本計画に基づき、新たなステージに移行する。同基本計画は同時に閣議決定された「GX2040ビジョン」及び「地球温暖化対策計画」と連動して、エネルギー安定供給、経済成長、脱炭素を一体的に進める政策の骨格を成すものである。
2011年に「FIT法」が制定され、2012年7月に「FIT制度」開始によって太陽光発電の導入が急速に立ち上がった。正確にはその前身となる「エネルギー高度化法」に基づく住宅用太陽光発電からの余剰電力の倍額買取制度が開始された2009年11月に溯る。ここを太陽光発電の普及の起点とすると、今回の「第7次エネルギー基本計画」の目標となる2040年までの30年間の半分が経過したこととなる。
これまでを振り返ると、FIT制度によって導入拡大が押し進められるとともに、その過程で顕在化した出力抑制、系統制約、立地制約、地域との共生等の問題に対して、制度改訂、規制改革、法整備等で対応し、“量の追求”と“質の向上”に費やす15年であったと言えよう。これまでを第1期導入展開期とすると、この間に75GW規模の太陽光発電が導入されたが、今回策定された「第7次エネルギー基本計画」では、同じ15年間でその倍となる150GW規模前後の導入が求められる目標が示されている。
世界は500MW/年の導入を達成し、年間TW規模の導入に向かっている。わが国も同基本計画によって、今日の導入停滞状況から抜け出し、2040年の太陽光発電導入目標量の実現に向けて、再び導入拡大に向けて動き出すこととなろう。「GX2040ビジョン」「第7次エネルギー基本計画」「地球温暖化対策計画」は、関係省庁にとっては、今後のとるべき施策への指針であり、太陽光発電産業及び電力需要家群にとっては、投資計画への指針となるからである。関係省庁は総力を挙げて地方自治体とともに、導入拡大への施策展開と規制改革にこれまで以上のスピードと規模で取り組んでいくことが不可欠である。導入領域に応じた設置の義務化などの強制力のある措置も必要となろう。同時に、太陽光発電産業および電力需要家群も主体的に、年間少なくとも10GW/年規模の導入を進めていくことが必須である。今後の導入拡大は図1に示すように、政府支援を受けながら自立をベースとする新たなフェーズに移行し、第2期導入展開期に進むこととなる。
これまでの太陽光発電は、FIT制度によって量の追求と経済合理性の追求を目的とする国民負担による導入展開が始まり、太陽光発電のコストダウンと市場形成が図られた。この結果、普及促進と社会認知に成功した。今後の太陽光発電は経済合理性を一層高めるとともに、太陽光発電の課題となっている系統制約、立地制約の克服と地域との共生を進めながら、2040年に向けたわが国の責任電源として役割を担っていかねばならない。新たなフェーズでは、量・質両面からのエネルギー安定供給の追求と、安価かつ安全・安心が担保された社会受容性を兼ね備える、自立した市場に発展することが求められる。こうした自立市場では、発電事業としての太陽光発電と自家消費のための太陽光発電が混在し、両面からの導入が加速していく。PPA方式の浸透により、太陽光発電の導入は投資ではなく固定費削減の手段ともなる。事業規律の強化を初め社会受容性の向上により、地域の発展につながる地域共生も進んでいく。さらに、技術開発と規制改革によって建物や農地活用等の新市場が創出されるとともに、蓄電池との融合による太陽光発電の高度化・高機能化も進んでいく。このように次のフェーズにステップアップすることで、太陽光発電は社会と共生する電源へと進み、自家消費や地産地消を担う電源に発展させていかねばならない。それが2040年の脱炭素社会形成を担う社会に溶け込む太陽光発電の姿であろう。
今後関係省庁は、2040年の導入目標達成に向けて省庁毎の新たな導入目標量を設定するとともに、産業政策も含めて施策展開の抜本的強化を本格化させていくこととなろう。太陽光発電の導入適地選択の自由度は狭まり、導入量の拡大による出力抑制や余剰電力への対応が迫られる厳しい状況を乗り越えて、これまでの倍の規模の導入を実現させていかねばならない。この新たな規模の導入の実現に向けては、経済産業省と環境省が司令塔となって、関係する省庁、自治体、産業界、電力需要家とともに、実現への目標を共有し合う「太陽光発電導入拡大官民協議会」を立ち上げ、行動していくロードマップを描くことが必要であろう。
図1 太陽光発電をめぐる新たなフェーズ
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