現在、世界市場を支配している太陽電池は単結晶シリコン型であるが、高い変換効率、 軽量・フレキシブル、安価なコストが見込めることから、次世代太陽電池としてペロブ スカイト型が世界的に注目されている。
2023年11月に開催された、第34回太陽光発電国際会議(PVSEC-34/中国・深セン)で は、投稿論文数589件のうち、31%が「ペロブスカイトとタンデム型太陽電池」で、結 晶シリコン系分野(19%)を上回る比率を占めた。中でも中国におけるペロブスカイト 分野の研究が活発化しており、進展している状況が浮き彫りとなった。9月に開催され た2023年欧州太陽光発電国際会議 (EUPVSEC2023)においても、ペロブスカイト分野 の報告が活発であった。計1,003件の投稿件数のうち24%がペロブスカイト太陽電池を 含む「薄膜と新しい概念」の分野であり、論文件数としては、結晶シリコン系分野に匹敵するものであった。また、ペロブスカイトの単接合型とタンデム型の論文件数がほぼ 同数であったことから、タンデム型の研究開発が加速していることが窺えた。とくに欧 州の研究機関は結晶シリコン太陽電池研究開発の蓄積を活かして、ペロブスカイト/シ リコン・タンデム型の開発に注力している。
ペロブスカイト太陽電池は、高い変換効率の可能性、安価な材料コスト及び低カーボ ンフットプリント・プロセスなどが期待されているが、一方で、耐環境性確保のためダブルガラスまたは高機能性のフィルムが必要とされ、製造コストで結晶シリコン太陽電 池と比肩できるかどうかは今後の課題である。また、可撓性ある結晶シリコン太陽電池 モジュールも既に製品化されており、フレキシブル/軽量市場での結晶シリコン太陽電 池との競合も避けられない。結晶シリコンとのタンデム化も、プロセスコストの上昇分 と性能のバランスがとれるかが課題である。20年以上の耐用性が要求される発電事業用では実証試験が始まったところである。以上のように、ペロブスカイト太陽電池の市場 化に向けた技術開発はこれからが本番と思われる。
図1に示すように、2020年以降ベンチャー企業や既存太陽電池製造・開発企業などが ペロブスカイト太陽電池(単接合及びタンデム型)の開発に続々と参入し、技術開発競争は激化している。単接合型に取り組む企業は、新たな用途拡大に向けた製品の商業化を目指し、海外ではすでに小規模あるいはパイロット製造ラインを稼働開始した企業も 複数存在する。PVSEC-34においては複数の中国企業から、実用サイズのダブルガラス 構造のペロブスカイト太陽電池モジュールに関する報告があり、IEC規格の試験をパス していることや、屋外設置での発電量測定結果等も報告された。
我が国においては、グリーンイノベーション基金事業において次世代型太陽電池の開 発が実施されており、単接合ペロブスカイト太陽電池の技術開発が、ユーザーと連携して進められている。量産技術の確立、需要の創出、GW級の生産体制整備の三位一体を目標に、一大国家プロジェクトとして早期の社会実装を目指している。しかし、激しい 国際競争を勝ち抜くためには、スピード感を持って技術開発体制の強化と加速が必要と なろう。さらに、ペロブスカイトを活用したタンデム型太陽電池は、30%を超える高効率製品が期待されることから、各国の結晶シリコン太陽電池製造企業が技術開発に取り 組んでいる。我が国においても、単接合に加えて、結晶シリコンとのタンデム型太陽電 池の技術開発の一段の強化が必要と考えられる。
脱炭素の将来を担う太陽光発電は、設置場所の多様化が必要であり、新たな市場形成 を担えるペロブスカイト型太陽電池の開発の意義は大きい。一方で、結晶シリコン太陽 電池は、生産能力で2024年には1TW/年を超えると予想されており、技術と利活用の両面で先行しており、少なくとも2030年までは市場支配が続く。米国、欧州及びインドで は、結晶シリコン太陽電池製造サプライチェーンの再構築に向けた取り組みが進行中で ある。わが国でも、太陽光発電導入拡大を進めるためには、結晶シリコン太陽電池の安 定調達策を確保しつつ、次世代太陽電池の技術開発競争では、産官学が総力を挙げて商 業生産で勝ち上がり、太陽電池の国産化を実現していこう。
図1 ペロブスカイトおよびタンデム型太陽電池開発参入企業
出典:各機関 プレスリリース資料、論文等より㈱資源総合システム調べ(2023年11月末現在)