はじめに
欧州は、本年6月下旬に記録的な猛暑に見舞われ、各国で観測史上最高気温を更新した。河川の水温上昇により、原子力発電所が運転を停止した事例もあり、地球温暖化の電力供給への影響が懸念されたことは記憶に新しい。本稿では、欧州連合(EU)における太陽光発電の導入支援施策及び導入を後押しする施策について最近の動向と共にまとめた。
EUの太陽光発電の導入目標
2022年5月にEUは、ロシアからの化石燃料への依存度を低減するための「REPowerEU計画」を発表した。同時に、クリーンエネルギーへの転換の加速の一環として「ソーラー・エネルギー戦略」(以降、戦略と記す)も策定した。このなかで、太陽光発電システムの定量的な導入目標として、2025年までに320GWac(400GWdc)、2030年までに600GWac(750GWdc)が示された。
EUの市場の課題とその対策
SolarPower Europe(SPE)によれば、2025年末時点でのEUの累積導入量は407GWであり、2025年の目標は達成されたという。ただし、SPEは、2030年の目標達成については、未達となる懸念を表明している。適地の不足、系統接続の遅延、出力抑制、電力取引市場でのマイナス価格時間の増加による太陽光発電の電力の価値の変化等の課題が生じているからである。SPEは、年間市場の成長が見込まれず、2030年の累積容量は718GW(中庸シナリオ)にとどまり、目標の750GWを下回る見通しを発表している。目標未達の懸念も浮上しているが、戦略の発表後には、欧州委員会(EC)は、目標実現及び課題に対応するための次に示す具体的な施策や方針を策定している。
EUにおける導入支援施策
・建物への導入義務化:戦略で示された「欧州ソーラールーフトップイニシアチブ」では、迅速かつ大規模な太陽光発電の導入を促進することを目指し、公共・商業施設及び住宅への設置義務化の方針が示された。2024年に改訂されたEU建物エネルギー性能指令(EPBD)において設置義務化は法制化され、加盟国は、今後、段階的に義務化を実施していく見通しである。
・適地制約・地域共生への対応:戦略では、太陽光発電の大規模展開を可能にする措置として、営農型太陽光発電、洋上を含む水上設置太陽光発電及び高速道路や鉄道線路などの輸送インフラ空間の多目的利用を挙げた。土地利用の競合や地域住民の受容といった課題が背景にある。これらの導入ポテンシャルは非常に大きく、例えば、EU・共同研究センターは、EUの道路・鉄道沿いに、垂直設置型太陽光発電システムを400GW以上が設置可能と分析している。
・営農型太陽光発電の位置づけ:戦略では、加盟国が共通農業政策に関する国家戦略を策定する際に、営農型太陽光発電に関するインセンティブや支援枠組み(営農型限定の入札等)を検討すべきことが示された。2025年9月に欧州議会は、「農業の将来と2027年以降の共通農業政策」を採択し、営農型太陽光発電を農業政策の重要な要素として位置づけた。農業活動と再エネの統合が政策目標として掲げられ、農業収入を補完する収入源として営農型太陽光発電の推進が明記された。既に、独、伊、蘭、仏等が営農型太陽光発電に関する取り組みを進めているが、他の加盟国にも拡大していくことが予測される。
・許認可スピードアップ:EUの「手頃な価格のエネルギーのための⾏動計画(2025年2月)」においては、「投資の誘致と確実な実施」のなかで再エネ導入や蓄電池、送電網建設の許認可プロセスをデジタル化し、手続き期間を大幅に短縮することが定められた。これにより、連系容量の拡⼤と蓄電池導入が活性化され、連系可能容量の拡⼤が期待される。
・電化⾏動計画:2026年7月に発表された「電化⾏動計画」では、エネルギー消費における電⼒の割合を2026年の23%から2040年までに46%へ引き上げ、欧州を「電気駆動⼤陸」にすることが示された。改定再⽣可能エネルギー指令(RED III)の完全な履⾏、再エネ⼊札制度の改善などを⾏う。蓄電池エネルギー貯蔵システム容量を2026年の55GWから2030年までに200GWとすることが発表された。
・サプライチェーンの再構築:戦略においては、太陽電池サプライチェーンの再構築が重点事項とされた。2024 年6 月に発効したネットゼロ産業法(NZIA)では、2030年までにEUの再生可能エネルギー年間導⼊量の40%をEU域内製品で賄うことが目標とされ、太陽電池や蓄電池の域内製造への投資が今後、活性化することが期待されている。
おわりに
EUにおいては、2025年に⾵⼒発電と太陽光発電による発電量のシェアが30%となり、初めて化石燃料(29%)を上回った。変動電源の増加に対して、経済性・費⽤効率や系統の不安定化の懸念から、再エネ導入にブレーキをかける動きも加盟国によっては顕在化しているものの、低コスト化の進む蓄電池等の電⼒貯貯蔵技術との融合により、安定供給電源(Firm Power)としての導入も進展している。 EUにおいては、再エネの導入は気候変動対策だけでなく、化⽯燃料依存からの脱却やエネルギー安全保障の柱として位置付けられている。EUが「地政学的リスク」から脱却するためには、再エネ導入は不可欠かつ不可逆的と考えられる。上述のようにEUが策定したソーラー・エネルギー戦略には、課題とその克服のための⽅策が⽰され、具体的な法制度や施策が整備されつつある。表1にEUと日本の施策の比較を示すが、EUの施策には学ぶべき点も多く、我が国でも「半導体産業戦略」、「蓄電池・電源産業戦略」に続く「太陽光発電戦略」の策定を期待したい。
表1 日本と欧州連合(EU)による太陽光発電への取組みの比較
| 日本 | 欧州連合(EU) | EUから学ぶべき点 | |
| 再エネ 導入目標 |
2040年度:発電量における再エネ比率:4~5割(第7次エネルギー基本計画) | 2030年の目標:最終エネルギー消費の42.5%、最大45%(RED III) | 法的拘束力をもつ数値目標を策定し、より野心的な目標と達成への強いコミットメントを示す |
| 太陽光発電 導入目標 |
2040年度:発電量における太陽光発電の割合:23~29%(第7次エネルギー基本計画)(203~208GWac相当※) | 2030年の累積導入量目標:600GWac(750GWdc相当) | 定量的目標と達成方法をEUソーラー・エネルギー戦略で提示。法制化、ガイドラインの策定等の具体的施策を実施 |
| 建物設置への 義務化 |
東京都等、自治体が義務化を実施 | 段階的導入義務を法制化(EU建物エネルギー性能指令) | 法制度として段階的義務付けを規定 |
| 営農型 太陽光発電 |
「農村再生可能エネルギー法」の下で国が営農型太陽光発電のあるべき姿を明確化、地方自治体が適格性を判断することで営農型太陽光発電を適正化 | 農業政策の重要要素として位置づけ、農業収入を補完する収入源として営農型太陽光発電を推進 | 農業生産性向上設備、農業の持続性のための方策として位置づけ、加盟国各国がガイドラインを策定し、推進施策を実施 |
| 太陽光発電・ 系統・蓄電池 との一体整備 |
再生可能エネルギー主力電源化小委員会等で今後の施策を議論中 | 蓄電池導入や電力市場改革を推進、許認可の大幅簡素化、蓄電池併設を推進 | 変動電源+蓄電池、送電網整備等による施策を再エネ導入目標達成のために一体的に進める |
※ 第47回基本政策分科会資料を基に、第6次エネ基で採用された容量に基づく発電量から換算(1kW当たり、太陽光1,244kWh)