6月5日、FIT法の改正を盛り込んだ「エネルギー供給強靱化法案」が参議院本会議で可決・成立した。施行は2年後の2022年4月からとなる。この法案の中で、FIT法は市場統合に向けて抜本的に改正され、わが国の再生可能エネルギーの普及は、固定価格買取制度への全面依存から、主力電源化の実現に向けた新たな段階に移る。特に、太陽光発電は、競争電源と地域活用電源の両分野にまたがる再生可能エネルギーとして、主力電源化の主軸としての役割を益々深めていくこととなる。
エネルギー供給強靱化法の成立により、経済産業省は新たな制度設計に動き出し、具体的には新FIT法の下では、①再生可能エネルギー電力の利用促進、②市場連動型の導入支援、③再生可能エネルギーポテンシャルを活かす系統整備、④再生可能エネルギー発電設備の適切な廃棄--を進め、新・電気事業法の下では、①災害時の連携強化、②送配電網の強靱化、③災害に強い分散型電力システムへの整備--を進めていく。さらに、この新法案に基づき、2018年に策定された「第5次エネルギー基本計画」から「第6次エネルギー基本計画」への移行準備もスタートする。その中で、2030年のエネルギーミックスも見直しすることとなろう。第4次計画から第5次計画への移行では、再生可能エネルギーに関して、エネルギーミックスにおける比率は変わらなかったが「主力電源化」が明文化された。今回の第6次計画への移行では、再生可能エネルギーに関する導入拡大の実態と実績、さらにエネルギーとしての経済性と信頼性向上を踏まえて、再生可能エネルギーに対して新たな目標が設定されることとなろう。
直近、世界的な新型コロナ禍による経済の停滞により、脱炭素に向けての再生可能エネルギーへの投資が進まないという考え方と、経済復興策に脱炭素を取り入れることにより普及が進むという考え方が交錯しているが、ヨーロッパを中心に、脱炭素型社会を目指す経済復興策として、エネルギーのグリーン投資への戦略的加速という“グリーンリカバリー(緑の回復)計画”が動き出そうとしている。幸い日本でも経済浮揚策の一つとしてグリーン投資への議論も始まるであろう。
「第6次エネルギー基本計画」の策定作業では、2030年だけでなく、2040年、2050年の姿が審議されることとなると思われるが、再生可能エネルギーの導入拡大への世界潮流、技術革新・融合によるエネルギーとしての進化、電力需要家が主体となった市場形成などをベースに再生可能エネルギーの将来像を考えると、図1に示すように、わが国の国家エネルギー戦略として「再生可能エネルギー立国」を打ち出すべきではなかろうか。世界では再生可能エネルギー社会構築への覇権競争が始まろうとしており、国益の源泉としてこの競争に日本は少しでも乗り遅れてはならない。
再生可能エネルギーの利用は制度やソリューション技術主導となるため、単純技術ベースの太陽電池製造とは異なり、先発優位性が発揮できる分野であるだけに「再生可能エネルギー立国」は日本のチャンスと捉えるべきである。このためには、次期エネルギー基本計画の策定では主力電源化からさらに一歩踏み込んで、今の時点から国民に対して、日本が再生可能エネルギー立国を目指していくことを謳っていく必要があり、2030年代になってから、第6次の基本計画策定の時が最大のチャンスであったと振り返ってはならない。
長年に亘る技術革新で、在来型エネルギー並みの水準に達した太陽光発電は、これまで何度も限界と言われていたハードルを乗り越えてきた。理想のエネルギーとして、太陽光発電は自身の進化とともに太陽光発電自身では解決できない課題を他の技術で補完・融合することで、今後も大きく成長していく伸び代を有している。むしろこれからが太陽光発電の本領を発揮する成長が始まると言っても過言ではない。
従って、第6次エネルギー基本計画の策定にあたっては、わが国のエネルギーをめぐる重要な基本指針である「3E+S」に加えて、新たな目標として「再生可能エネルギー立国」を打ち出し、これをベースにした産業政策、地域経済活性策、海外インフラ輸出政策などへも対応できる、一皮も二皮も剥けたプッシュ型のエネルギー基本計画の策定にチャレンジしてほしい。第5次エネルギー基本計画を単にブラッシュアップするのではなく、サプライサイド及びディマンドサイドの双方が、こぞって将来を見据えた明るい未来社会を作るための投資意欲をかき立てる視点を盛り込んだ基本計画としていくことが重要である。
図1 国家エネルギー戦略としての再エネ政策への国の責務(案)